luxury esperience and high quality

concept design 02 keiji ashizawa
design
芦沢啓治 keiji ashizawa forest bath room

実験的かつ革新的なバス空間を提案 建築家たちによるコンセプトデザインプロジェクト | 02

非日常の体験をつくり出す
必要最低限の機能だけを残した
少し特別な空間。
神奈川の森に囲まれた敷地で住宅を計画しており、そちらのお風呂場をイメージして空間をつくりました。実際の住宅をベースに考えているので、日常の先にある、少し特別な空間を目指しています。

細長い廊下を進んでいくとニッチ(飾り棚)のある壁にぶつかり、右に向くとそこに一気に開けた空間が広がります。

お風呂場の角二面が、天井までの大きな掃き出し窓となっており、夕方から西日が差し込みます。もう一面は洗面台となっており、大きな鏡が向かいの自然を映して、空間を大きくみせます。洗面台と浴槽の間には壁をあえてつくらず、まるで三面に自然がつながっているような印象をつくります。

浴槽の延長上には縁側を設けることで周囲の森との連続性が生まれ、お風呂をあがってそのまま外に出てくつろぐことができたりと、リビングとは別の居心地のよさをお風呂場にもつくりたいと思いました。ここの土地にはもともとタヌキが遊びに来るみたいで、外でくつろいでいたらタヌキがひょっこり現れる、みたいなことがあるかもしれませんね。

お風呂場には必要最低限の機能だけを残し、設備をシンプルにすることで、ノイズが少ない、より落ち着ける空間となっていると思います。 concept by keiji ashizawa

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interview

バス空間はもっと美しくあるべき
芦沢啓治建築設計事務所 / 芦沢啓治 keiji ashizawa

建築やインテリアはもちろん、家具や照明などのプロダクトデザインでも
その才能を遺憾なく発揮。さまざまな領域を自在に横断するスキルから
統一感のあるきめ細やかな空間デザインを生み出している芦沢啓治氏。
そんな芦沢氏が考える、これからのバス空間の可能性。

text by toshiaki ishii (river co., ltd.)
photograph by yu kawakami

できるだけムダな情報はなくしてほしい。

――芦沢さんにとって、上質なバスルームの条件を教えてください。

余計なことをしていないことでしょうか。最低限必要なものが必要なところにきちんと置いてあるというか、バスルームはよりストイックな空間であるべきです。例えば、日本の温泉旅館に行くと「床がすべるので気をつけてください」という張り紙や、やたら広告的なパッケージのシャンプーを目にしますが、裸になって感覚が鋭敏になっている分、そういうのはとても邪魔に感じてしまいます。それらがなくなるだけで、すごく静かな気持ちになれると思います。

ぼくは禅寺が好きで、少し大袈裟にいうと、バス空間には禅寺の域に達してもらいたいんです(笑)。たまに、ハンドシャワーがなくてレインシャワーしか付いていないシャワールームがありますが、あれはあれでひとつの答えなんですよね。上から温かいお湯が降り注いでくれれば全身は洗えるし、そこに機能的なものは本来そんなに必要ないと思います。石鹸ひとつなのか、ボディソープとシャンプー&コンディショナーかわかりませんが、そういうものがあって、あとはシャワーボタンかノズルがひとつあれば十分。そのくらいミニマルなほうがいいですよ。もちろん、日々使う人には機能も必要ですが、旅先などの非日常空間ではできるだけムダな情報は削ぎ落としてほしいと思います。

自分たちが考える以上に、光や音のノイズが人間の精神的な集中力を削いだり、あるいは快適性の指針になっていると感じています。照明がないだけでも余計な光が目に入らなくて、だいぶほっとしますよね。そういったことも含めた総合力というか、どういうふうにそこに佇んでもらいたいのか、落ち着いてもらいたいのかを考えることが大切。バス空間というのは、心の底から落ち着きたい場所なので、そういったノイズをどこまで消すことができるかが非常に重要だと考えます。

――どんなところからインスピレーションを得て設計していますか。

自分の経験でしょうね。こういうバスタブがよかったというのもありますが、逆にバスルームからインスピレーションを得るというより、こういう空間がバスルームだったらいいのにと考えるときもあります。そういったことも含めて、やはり経験的な部分は大きいですね。

土地との対話でランドスケープと空間を融合。

――これまで体験したなかで印象深かったところを教えてください。

スイスのアルプス山中にある「テルメ・ヴァルス(※)」はすごくよかったです。プールくらいの広さのある浴槽が屋内外にいくつもあり、水着を着用して入るのですが、あちこち巡る楽しさもあって、気がつくと5時間ほど滞在していました。ここの素晴らしさは、水と建築が一体となっている感覚。あと、施設内に足を踏み入れて浴槽のある空間にたどり着くまでまったく隙がないというか、高揚感をずっと保ちながら歩を進められることにも非常に感心しました。サービスも含めた総合力ではありますが、教会と同じく何百年も維持され続ける建物にするという建築家の強い意志や世界観が存分に感じられる施設でした。
※スイスの有名建築家のピーター・ズントー氏による1996年竣工の温浴施設。チューリッヒから電車とバスを乗り継いで4時間以上かかるのにもかかわらず、建築の聖地として世界中からここを見に来る人が絶えない。

――施主から多いリクエストはどんなことでしょう。

明るいとか、開放的であるといったことは常に求められます。新しく住宅をつくるときは、それまでマンション暮らしだった人も多いので、彼らが言わなくてもぼくのほうである程度そういう設定にします。マンションのバスルームには基本的に窓がありませんから、その分、照明がすごく重要になります。しかし住宅の場合は、窓があって、光があると、それだけでだいぶ違いますよね。裸になって、お湯に浸かって、景色の一部になるというか。ランドスケープが取り込めると雰囲気がまったく変わります。

もちろん、照明とインテリアだけでも心地のいい空間はつくれますが、外から光が差し込んだり、ちょっとした庭があったり、夜になると夜景が見えたりといった景色を身近に感じられるのは、それとはまったく別の感覚だと思います。でも、住宅でバスルームをつくるときは、朝入浴したときに気持ちいいというのがやっぱり大きなポイントになりますね。

――最近手がけた印象に残っているプロジェクトを教えてください。

富士五湖の西湖の南斜面につくった別荘です。南側の窓から驚くほどの大きさで富士山が見える雄大な景色が楽しめるところで、そこに大人が5~6人で入れるようなバスタブを青森ヒバでつくったのはすごく印象に残っています。バス空間とランドスケープが一体になっているのと、何人かで入れる楽しさもある。お風呂はひとりで過ごすのもいいですけど、やっぱり誰かと一緒に入るとより楽しいですよね。

日本のバス空間に必要なのは圧倒的な静謐さ。

――従来のシステムバスや在来浴室にはどんな不満がありましたか。

在来浴室は自由につくれるので、特に不満はありません。強いで挙げるとしたら、施主に予算や安全性の点から「在来はダメ」といわれることでしょうか(苦笑)。システムバスに関していうと、安価にできるのはいいのですが、品番を書いたら終わりみたいな、設計の余地がほとんどないのが残念です。そういう経済合理性と、ある種の安全性は担保されているけれど、プラスチックな感じとか、素材感が剥奪されたような世界は、ぼくとしてはあまりいい気はしないですよね。例えば、樹脂でできた体にきれいに沿ったバスタブに寝転がったら気持ちいいのですが、それ以上に天然の石や木でできた浴槽は心地いい。素材に体が触れているというか。セーターもウールなのか、アクリルなのかで着心地に差がありますよね。カシミヤを着たときの気持ちよさは格別みたいな。そういうことが在来では可能だし、カスタムメイドにもその面白さがあると思います。

aq.が目指すシステムバスと在来浴室の中間というレンジは、ホテルやマンションのようなきちんとしたバスタブをつくりたいときに使えるので、ぼくらにとってはすごくありがたいですよね。昨今、ぼくらも立て続けにマンションのリノベーションを行いましたが、そのとき在来ほどの自由度はありませんでしたが、ある程度イメージしていたものに近づけるのはとても助かりました。それと同時に少し罪悪感もあって、一つひとつイチからつくるとなると、それぞれ型をつくるところから始めないといけないので、再現性がないのを後ろめたく感じていました。ぼくらが最近、手がけたホテルは全部で5室というホテルで、そのうちの3室に同じ型のバスタブを置きました。少しムダなスペースが出ますが、そういったこともコストを考えると検討する必要が出てきます。

――今後、バス空間はどのように発展していくと思われますか?

大切なのはそこを使う人がどうしたいかということ。1日3回入浴するような人だったら、リビング空間の一部にあるほうが便利でしょうし、それはその人の生活の一部なのでそうするべきだと思います。一方で「ちょっと瞑想してくる」みたいな感じだったら、ひょっとしたら離れにあるくらいのほうがいいのかもしれません。

いまの日本のバスルームにないのは静けさだと思います。日本の場合は、そこが圧倒的にユーティリティ空間になっていて、脱いだ服がすぐに洗濯できるみたいな感じだし、散らかっていて当たり前。さらに場合によっては、浴室暖房乾燥機が付いていて洗濯物が干してあったりする。それもいいアイデアだと思う一方で、そういうものとは切り離してバスルームは特別な空間として楽しむほうが、ぼくは幸せなんじゃないかなという気がします。お湯に浸かっている時間は特別ですから、そのほうがやっぱり贅沢ですよね。

――確かに、日本の住宅は基本的に脱衣所と洗濯機はセットですね。

ただ、僕が住宅をつくるときは必ず別にします。洗面台とバスルームは一体になるので、どうしてもそこに脱衣空間は必要にはなりますよね。非常に合理的な設計だと思いますが、それゆえ洗濯機があったほうがいいとか、そのスペースを使って洗濯物を干すのが便利だというふうになると、本来は特別で神聖な場所であるはずのバスルームがそうではなくなってしまう。シャワーのお湯の飛び散り方を計算すれば、本当はバスルームには扉すらいらない気がします。空間として、そこを特別な場所にしようと思ったときに、ここからバスルームという境界線があるより、そこにすっと入ったときに凛とした空気が自然に流れているような。そういう意味では、ちょっと座ってリラックスできる場所があったりするのも必要かもしれないですね。

自然豊かな森の角に開ける特別なバス空間。

――aq. を意識してデザインしたバス空間についての説明をお願いします。

施主のための住宅をつくってきたので、自分が理想とするバスルームといわれてもよくわからなくて(笑)。そこで、このプロジェクトに適した物件がないか探してみたところ、いま神奈川で手がけている住宅がちょうどいいかなと。ぼくは通常、住宅の浴室は在来で設計することが多いのですが、aq.のバスルームは在来に近いというか、とても自由度が高いので、このデザインがプロトタイプのひとつになり得ると思い、いま施主と話しながら絵づくりをしているところです。全体の設計がまだ決まっていないなか、バスルームだけを進めている状態ですが、木造住宅の1階の角にバスタブをつくって、森の角に開けるバス空間というイメージを考えています。

ただ、せっかくなので、aq.のほうはもう少し夢のあるものにしたいと思っていて、リアルなこの物件をきっかけに、なにかしらバスタブとランドスケープの関係性のようなところまで踏み込めるといいなと。ここからストーリーを膨らませて、家の中のバスルームだけれど、ランドスケープと一体化していて、露天風呂よりももう少し気軽に使えるというか。バスタブをまたいで、そのまますぐ外に行けると別の楽しみ方もできるので、外から家の中を見たときにバスルームが特別な場所に見えるようにしたいと考えています。

――ちなみに、どういった素材感を考えていますか?

海に近い土地のため湿気が多く、特に1階は湿気が溜まりやすいので木のバスタブというわけにいかないでしょうね。石でつくるにしても、使える石はすごく限られているので、実際はタイルでつくることになるかもしれません。今回は、扉もなくしてしまって、浴槽のサイズを洗い場よりも大きくしています。シャワーもちょっとストイックな感じにして、ハンドシャワーはなしでもいいかなと思っています。

――最後に、aq. に期待することやご要望があればお願いします。

バスルームはもっと美しくあるべきだ、ということを一緒に表現していきたいですね。ある種の豊かさというか。そういう観点でいくと、ひとつの標準的なパッケージが必要にはなってくるかもしれないですね。美しいデザインをできるだけ多くの人に届けるというのがプロダクトデザインのゴールのひとつだと思いますが、そのときにどこまでストイックさをキープできるのかがカギになってくるでしょうね。

profile

芦沢啓治  keiji ashizawa
芦沢啓治建築設計事務所  主宰/建築家

横浜国立大学建築学科卒。1996年に設計事務所にてキャリアをスタート。2002年に特注スチール家具工房「superrobot」に正式参画し、オリジナル家具や照明器具を手がける。05年より「芦沢啓治建築設計事務所」主宰。「正直なデザイン / Hones Design」をモットーに、クラフトを重視しながら建築、インテリア、家具などトータルにデザイン。国内外の建築やインテリアプロジェクト、家具メーカーの仕事を手がけるほか、東日本大震災から生まれた「石巻工房」の代表も務める。
www.keijidesign.com

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