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concept design 07 the design labo 板坂諭 satoshi itasaka a blend of
japan and the west

実験的かつ革新的なバス空間を提案 建築家たちによるコンセプトデザインプロジェクト | 07

築100年の古民家から
インスピレーションを得た
和洋折衷のシャワールーム
新富町のビルの隙間にひっそりと佇む築約100年、木造3階建ての古民家。
陰影のある空間から扉を一枚隔てた向こうには、
光がまわり込む明るいシャワールームが広がっています。
バスタブがない分、シャワースペースにゆったりとした広さを確保することができます。

繊細なルーバーをあしらい、床と壁に採用したのは岐阜で採れる天然石の黒霞。
上品かつ繊細な表情をもつ石ですが、現在はほとんどが砂利として使われていることを残念に思い、
美しい表情を引き出すために大きな面で使用することにしました。
明るい色合いなので光が拡散され、バス空間が柔らかな光で包まれます。

シャワー水栓はレインシャワーのほかに、ハンドシャワーを通常よりもあえて低い位置に設置しています。
木のスツールに腰掛けてハンドシャワーに使えるようにすることで、
シャワーという西洋の文化と日本の入浴スタイルを融合させました。

洗面ボウルも黒霞で造作しています。ブロンズ色のミラーを選び、
私がデザインしたムラーノガラスの風船の照明がアクセントに合わせて遊び心を添えました。
日本の素材や入浴スタイルを改めて見つめ直すことで、新しさを感じさせるシャワールームになったと思います。 concept by satoshi itasaka

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interview

日本の素材と入浴スタイルを見つめ直し、新たなバス空間を考える
the design labo / 板坂諭

建築からプロダクトデザイン、アートまで幅広い領域で活躍する建築家の板坂諭さん。
東京の新富町に建つ古民家を自身のサテライトオフィスとして改修しました。
もしも、ここに新たにオーダーバスブランド、aq.でバスルームをつくるならーー。
この建物からインスピレーションを得てイメージしたのは、
静謐な佇まいの中に新しさを感じさせる、和洋折衷のシャワールームでした。

text by emi uemoto
photograph by yosuke owashi

日本の素材がもつ美しさを引き出す

――今回のバスルームのコンセプトについて教えください。

ここ新富町は明治8年に劇場「新富座」が建てられ、演芸のまちとしてにぎわったまちです。今はオフィスビルが建ち並んでいますが、高いビルとビルの隙間のような場所に、新富座の甘味処だった築約100年の古民家が建っていました。関東大震災も戦災も免れた貴重な建物を未来に引き残したいと思い、オーナーの許可をいただいてサテライトオフィスとして改修しました。

たいへん古い建物ですので当然ながらバスルームはなく、廊下の突き当たりにつくることを想定して理想のバス空間を考えてみました。この建物は木造3階建て、1、2階が和、3階は洋の空間になっています。この建物からインスピレーションを得て、バス空間で新しい和洋折衷を表現してみたいと思いました。

現代人は忙しく、最近はシャワー派の方も多いと聞きます。普段はシャワーで済ませ、週末に温泉や別荘に行くライフスタイルの方も増えています。私自身もシャワー派で、普段はバスタブに浸かることは少なく、バスタブのスペースを有効活用できないだろうかと常々考えていたんです。これまで日本が培ってきた歴史や文化を見つめ直すことで、新しい在り方が見えてくるではないかーー。シャワーはもともと西洋の文化ですが、シャワースペースであえて和の空間を表現したいと思いました。

photo by Ikunori Yamamoto

――どのように和を表現されたのですか?

一つは素材です。一般的にバス空間に使われるのは十和田石や白河石などですが、日本には他にも素晴らしい素材がたくさん眠っています。日本にしかない素材を使ってモダンな空間をつくれないだろうか、と。そこで今回は、岐阜で採れる黒霞という天然石を床と壁に使うことにしました。黒霞は繊細かつ上品な表情をもつ美しい石なのですが、現在はほとんど砂利として使われ、もったいないなと感じていたんです。
もう一つは水栓の位置と木のスツールです。日本人は立ってシャワーを浴びるより、座ってハンドシャワー使う方が慣れていると考え、シャワー水栓の位置を通常より低めに設置しています。シャンプーなどを置く棚も座って手が届く位置に配置しました。シャワーの高さを少し変えるだけで新鮮な印象になりますよね。和と洋が融合したこの建物のように、シャワーの使い方でも和洋折衷を表現しています。

和の空間には細かな情報が必要

――aq.の専属バスアーキテクトとはどのようなことを相談されましたか?

和と洋の空間では必要な図面のスケールや情報量が異なります。洋の場合、100分の1の図面でも建てることができますが、数寄屋や寺社仏閣をつくる和の大工は今でも原寸で図面を描くほど、和の空間には細かな情報が必要なんです。
当初、黒霞の美しい表情を引き出すため大判サイズで使う予定でしたが、バスアーキテクトの方と相談し、現実的に大判の石を採取するのは難しいだろうと考え、1m角のサイズに変更しました。

ルーバーは古民家の古材にも合うよう杉材を選びましたが、浴室によく使われる檜に比べて杉は水に弱い。そこで、水がかかる部分はガラスの裏側にルーバーを設置する方法をバスアーキテクトの方に提案していただきました。また、話し合いのなかでルーバーは木ではなく、色を蒸着したアルミも選択肢として入れていました。アルミなら構造的に細いルーバーにすることが可能ですし、デザインと耐久性、コストの面からも理に適っています。バスアーキテクトの方と素材を検討でき、ディテールについて細部まで詰められたのは非常によかったと思います。

ディテールをていねいに詰め、情報量が増えると空間の密度が高まり、奥行きも生まれます。細やかなディテールが織りなす空間の豊かさは、シャワールームを使っているうちに少しずつ感じられるものなのではないでしょうか。それはこの古民家も同じなんです。松の梁一つとっても、木のクセを読んで重力に対して逆らうように組むことで長く住めるものにしている。庶民の家でもこんなにていねいにつくっているのだと感心してしまいます。和の空間はじんわりと伝わるような奥深さがあります。それをシャワールームに入ったときも感じてほしいと思いました。

自然と一体になれるお風呂が理想

――板坂さんにとっての理想のバスルームを教えてください。

自然光が入り、できれば窓を開放できて自然と一体になれるお風呂が理想的ですね。祖母の家が「砂湯」で有名な岡山の湯原温泉にあるのですが、川底から湧き出る温泉でできた天然の露天風呂が川の真横にあるんです。今は脱衣所がありますが、私が幼い頃は脱衣所すらなく、お湯に浸かれば自然の一部のようになれる。昔からそんな体験をしていたので、開放的なお風呂が好きになったのだと思います。

――普段はどんな風にバスタイムを過ごしていますか?

事務所のスタッフにも呆れられるぐらい植物が好きで、事務所も緑だらけなんです。なかでもランが好きですね。ランは南国の植物ですから、日本の気候は乾燥しています。日本でランというと胡蝶蘭のような土に植えられたものを想像すると思いますが、本場のタイなどでは木に着生しており、土に根を張ってないんです。着生したランには定期的に水をしっかりとあげないといけません。水を十分に上げられ、湿気もある場所となると住宅だとお風呂なので、私がお風呂に入るときにランもバスルームに移動させ、蒸気をかけてあげています。大きなものは私の身長ぐらいあるので、水をしっかりあげようとすると、お風呂が最適です。


――過去に訪れたことのあるバスルームで、一番印象に残っているものを教えてください。

俵屋旅館の客室のお風呂ですね。俵屋旅館は海外の要人も多く宿泊していますが、体の大きな外国の方もよくここに入っているな…というぐらい小さなお風呂なんです。でも、高野槙でできていて、常に磨き上げているので、いつもお風呂に槙の香が充満しているんです。“木のお風呂を育てる”というのも、とても日本らしい発想ですよね。さまざまなホテルや旅館で素晴らしいお風呂を経験させてもらっていますが、俵屋旅館のお風呂のように、日本人が昔から使っていた素材で当たり前につくったお風呂が本当によくできているなと感じています。

コンパクトで豊かなバス空間に挑戦してみたい

――最近手掛けられたプロジェクトで印象に残っている住宅を教えてください。

最近では軽井沢の別荘のお風呂が印象に残っています。とても広い敷地で、周囲からの視線を気にする必要がなかったので開放的な空間に仕上げました。大きな開口部を設け、自然の景色を楽しみながらお風呂に入れます。
コロナで自身の生活を見直し、家にいる時間やバスタイムを大切にする方が増えたような気がしています。家でも仕事をするようになり、リラックスする時間と仕事で慌ただしい時間が共存するようになったので、バスタイムがちょうどいい気分転換になってくれます。

ここもサテライトオフィスですが、小さなバー空間をつくっており、打ち合わせスペースとは完全に遮断し、あえて別世界にしています。昔のお茶室は決定権を持つ人の最終的な商談の場でしたが、このバー空間もお茶室のようなストーリーに倣って重要な商談の場になるかもしれません。空間にメリハリがあると、使い方の発想も広がっていきます。

photo by Ikunori Yamamoto

――今後、バスルームはどのように変わっていくと考えますか?

日本の場合は敷地が狭いので、間仕切りを増やしていくと、どうしても生活しづらくなってしまう。先ほどは空間を分ける方法についてお話ししましたが、未来のバスルームを想像すると、バス空間とリビングと明確に分かれていない、一つの空間でどちらも成立するようなスタイルが広がっていくといいのではないかとも考えています。 使い方を定義しない“がらんどう”の空間があって、その一部がお風呂になっているような……。いわゆるバスルームではなくて、天井からお湯が降り注いでいる場所がたまたまシャワースペースになっている、くらいの空間をつくれたら面白いような気がします。ただ、日本は高温多湿でカビや湿気の対処が必要なので、除湿をサポートしてくれるような設備的な工夫が必要になってくるでしょう。


――今後aq.に期待することを教えてください。

これまではデザインの自由度を優先すると、どうしても在来工法を選択せざるをえなかったのですが、防水面はユニットバスに劣るなどデメリットはあります。今インバウンド向けのラグジュアリーマンションの改修も増えており、万が一水漏れでもあったら補償問題に関わってきますからユニットバスの採用は必須です。とはいえ、従来のユニットではラグジュアリーマンションには対応できないでしょう。aq.のような防水性を担保しながら素材もプランも自由にデザインできるオーダーバスを多くの方が待ち望んでいたのではないでしょうか。

photo by Ikunori Yamamoto

profile

板坂諭  satoshi itasaka
the design labo 代表/ 建築家・プロダクトデザイナー

いたさか さとし/1978年岡山県生まれ。2001年名城大学理工学部建築学科卒業。設計事務所2社を経て、2012年建築設計とプロダクトデザイン、グラフィックデザイン、デザインコンサルタントを主軸とするthe design laboを設立。住宅や商業施設などの設計、国内外の企業のプロダクトを手がけるほか、デザインブランド「h220430」も主宰する。

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